第1章:出会いはアプリから。最初は“友達”のつもりだった
あの頃の私は、もう恋なんてしないと思っていた。
仕事に追われ、休日は一人でカフェに行って本を読むか、少し遠くまで散歩をするくらい。
恋よりも「静かな日常」が心地よい――そう思っていた。
でもある日、何気なく見た記事に「大人の出会いを応援するアプリ」という言葉があった。
軽い気持ちで登録してみたのは、ほんの気まぐれだった。
プロフィールに「穏やかな時間を一緒に過ごせる方と」と書かれた文章が、なぜか印象に残った。
その人の写真には、柔らかい笑顔。
派手ではないのに、目の奥が優しい。
名前は久子。
「同性同士の出会い」という言葉に、少しだけ戸惑いながらも、心のどこかが静かに動いた。
メッセージを送り合ううちに、「友達ができたらいいな」と思うようになった。
恋なんて、考えていなかった。
ただ、久子さんと話すと心が軽くなる。
そんな時間が少しずつ増えていった。
第2章:メッセージのやり取りが、いつしか一日の楽しみに
毎晩、スマホの通知が鳴るたびに心が弾むようになった。
話題は、好きな映画や旅先の話、季節の移り変わり。
久子さんはいつも言葉選びが丁寧で、文章の端々に思いやりがあった。
「今日、通りかかった公園の金木犀がいい香りでした」
そんな一文に、私はその景色を思い浮かべる。
気づけば、久子さんと話す時間が、一日の終わりの小さなご褒美になっていた。
彼女の言葉は、まるで心を包む毛布のようで、日々の疲れが和らいでいく。
ある夜、「会ってみたい」とふと思った。
それは恋心というより、もっと静かな「確かめたい気持ち」だった。
画面越しの言葉の向こうにいる人を、この目で見てみたくなったのだ。
その頃、私はお気に入りのコーヒー豆を見つけていた。
丁寧にドリップして、ゆっくり香りを楽しむ時間が好きだった。
そんな小さな習慣が、なぜか久子さんとのやり取りを思い出させた。
趣味や暮らしのなかに、彼女の存在が少しずつ染み込んでいった。
第3章:初めて会った日、思わず心が動いた
待ち合わせたのは、静かなカフェ。
大きな窓から秋の光が差し込み、店内にはほのかにシナモンの香りが漂っていた。
先に座っていた久子さんは、私を見るとゆっくりと笑った。
画面の中で見ていた笑顔よりも、ずっと温かかった。
「初めまして」と言いながら、なぜか懐かしい気持ちになった。
話し出すと不思議なほど自然で、沈黙すら心地よい。
その日は、ただ一緒に過ごしただけなのに、帰り道の空が少し違って見えた。
「また会いたい」
そう思った瞬間、胸の奥がやさしく疼いた。

後日、何気なく見た写真体験サービスの広告に目が留まった。
「自分らしい笑顔を写すことで、新しい自分に出会う」
あの日、久子さんが撮ってくれた私の写真を思い出した。
笑っている自分を、久しぶりに“綺麗だな”と思えた。
第4章:恋だと気づいた夜
ある夜、久子さんから届いたメッセージに胸が熱くなった。
「あなたと話していると、季節が少し違って見えるの」
その言葉を何度も読み返した。
なぜか涙が滲んで、スマホを握りしめたまま動けなかった。
そのとき、ようやく気づいた。
これは友情じゃない。
私は久子さんを、ひとりの女性として好きになっていた。
「同性を好きになるなんて」と思ったこともある。
だけど、気持ちは理屈ではなく、ただ“心が動いた”だけ。
久子さんと出会って、自分の中の“怖さ”が少しずつほどけていった。
周りにはまだ言えなかったけれど、心のどこかで確信していた。
この気持ちは間違いじゃない。
恋をしている――それだけで、人生が少し明るくなった気がした。
そんな時期、たまたま見た記事に「ありのままの恋を応援するサービス」という言葉があった。
自分の気持ちを否定しないでいい、そんな居場所がある。
それを知っただけで、肩の力が抜けた気がした。
第5章:今、ふたりで歩いていく
季節は春に変わり、久子さんと過ごす時間が増えた。
カフェの帰り道、並んで歩く影が長く伸びて、ふと手が触れたとき、彼女が少しだけ笑った。
その笑顔がすべてを語っていた。
家族や友人にはすぐに話せなかった。
けれど、「大切にしたい」と思う気持ちに、もう嘘はつけなかった。
久子さんも同じように思ってくれていた。
今では、二人で季節の花を見に行ったり、記念日に小さな贈り物をし合ったりする。
香りのいいハンドクリームをプレゼントされたとき、「こんなに優しい気持ちを思い出させてくれてありがとう」と心から思った。
思えば、あの“偶然の出会い”から、すべてが始まった。
もう隠さない。もう怖くない。
この気持ちは、私が生きてきた証のひとつだ。
恋に年齢も性別も関係ない。
ただ誰かを想い、寄り添い、笑い合うこと。
その幸せを、今の私たちは知っている。
第6章:出会いが教えてくれたこと:
久子さんと出会って、私はようやく「ありのままの自分」を受け入れられるようになった。
恋をすることが、誰かを求めることが、悪いことではないと知った。
この年齢だからこそ、やっと分かる。
恋は、誰かにときめくこと以上に、「心が通い合うこと」なのだと。
あの夜、スマホの画面に映った一文が、私の人生を変えた。
偶然のようで、きっと必然だったのだと思う。
そして今、私はもう怖くない。
心を開いて誰かを愛することを、誇りに思っている。
出会いは、いつだってあなたのそばにある。
それがどんな形であっても、心が動いた瞬間を大切にしてほしい。
恋は、生きることをもう一度あたためてくれるものだから。